ギャンブル依存症の家族のための治療プログラム-ポジティブな言葉づかいー

今回は、ギャンブルの問題に直面しているにもかかわらず治療を受けることを拒否している人の家族や友人のための実証に基づいた治療プログラムについて、紹介します。

この治療プログラムは3つの大きな目標を達成するために、ギャンブルをしている人の家族等を対象に、コミュニケーション方法のトレーニングをとおして、家族や友人の方々とともに取り組んでいくものです。

この治療プログラムの目的とは、以下の3つになります。

1.ギャンブルをしている人が治療を求めるように影響を与える
2.ギャンブルをしている人のギャンブル行動を減らす
3.ギャンブルをしている人が治療に参加するかどうかにかかわらず、家族自身の気持ちや生活を改善させるために、家族や友人の方々が生活をプラスの方向に変化させるのを支援する

家族や友人の方々は、ギャンブルをしている人と触れ合う機会が多いため、家族や友人の方々の言動がギャンブルをするかどうかにかなりの影響を与える可能性があります。

特に今回は、この治療プログラムの重要なポイントの1つ、家族や友人の方々のコミュニケーションについて紹介します。

一般的に、家族や友人の方々は、この治療に取り組み、自分の今のコミュニケーション・スタイルを見なすことで、日々の生活の役に立つあるポイントに気づくことができると言われています。
例えば、
・ある特定の問題について、相手に原因があると責めることが多かった
・怒りが燃えさかるのに任せて、話したり行動したりしていた
・ポジティブな表現ができる場合であっても、ネガティブな表現で物事を伝えてしまっている

残念なことに、相手のことを思ってかけた言葉が、またはコミュニケーションの問題(例えば、家族間の言い争い)が、結果としてギャンブル行動を引き起こすきっかけになる場合もあります

ここでは、家族や友人の方々が、ポジティブな言葉遣いをするための3つのポイントを紹介します。一度に以下の3つすべてを取り入れようとせず、できるところから気をつけて、変えていくことをお勧めします。

1つ目は、「簡潔である」ことです。
長話というのは、聞き手を退屈させてしまうことがありますし、逆に相手に言って聞かせようとする場合や話がうまく行かなくなってくると、どうしても話は長くなってしまいます。悪い例と良い例を1つずつあげてみますので、家族や友人の方々は自分の言動を振り返ってみてください。
悪い例:「いつも帰りが遅いけど、本当に毎日毎日心配してるんだ。前はそんなに遅くなったりすることはなかった。パチンコも週に1回くらいだったし。遅くなるなら電話くらいしたらどうなんだ。
良い例:「もし遅くなるなら、電話してほしい。電話があれば、心配もあまりしないから。

2つ目は、「ポジティブである」ことです。
まず、責めたり、根拠なく相手を傷つけたり、一般化しすぎたりすることをできるだけ避けるべきです。ポジティブな言葉遣いをすることは、「して欲しくないこと」ではなく「して欲しいこと」を伝えることを意味してもいます。ギャンブルを止めて欲しいとだけ言う場合、その代わりに何をするべきかは大抵曖昧なままであることが多いです。(ただ、ギャンブルの代わりに何をするかを見つけることは簡単なことではないことも、事実としてありますが…)
悪い例:「仕事帰りにパチンコは止めて。負けて帰ってきて、イライラされて、八つ当たりされる身にもなってよ。
良い例:「仕事からまっすぐ家に帰ってくれたとき、一緒にご飯食べたりテレビを見たりできるのは本当に楽しい。そういうときのあなたは、とっても優しいしね。

3つ目は、「思いやりのある発言を心がけること」です。
難しいことではありますが、直面している問題について、ギャンブラー本人の視点から理解し、それを言葉で表すことは大切です。関係者が共感を示すことができれば、ギャンブラーも関係者の話に耳を傾けるようになる可能性が高まります。
悪い例:「本当にわけがわからない。急に時間ができたからって、ギャンブル以外にやることはあるでしょ。
良い例:「急に暇な時間ができたからって、ギャンブルの代わりになるようなことを探すことは、最初は難しいと思うよ。

このような、ポジティブな言葉づかいすれば、すぐにギャンブラーが良い方向へ変わっていくとは言い切れませんが、継続していくことで、目的の達成に近づいていきます。

また、人によって、どのような言葉遣いが、良いものとなるかは違ってきます。

専門家のアドバイスをうけながら適切なコミュニケーションの練習をすることは、いま目の前で起きている問題を解決する近道の1つだと思います。ギャンブル依存症リカバリーセンターでは、上記の言葉遣いを実際に練習したりすることも、カウンセリングの中で取り組んでいきます。

この治療プログラムは他にもさまざまな大切な取り組みが行われていますので、どこかで紹介させていただきます。

最後に、一番大切なことをお伝えします。

ギャンブルの問題についてあれこれと考えるだけでは何も変わりませんが、家族や友人の方々がギャンブルをしている人に対する関わり方を変えれば(今までとは異なる関わり方を試せば)、現在直面しているギャンブルに関連する問題を変えることができる可能性がある、ということを「忘れないでいる」、ことです。

参考図書:CRAFT 依存症患者への動機づけ‐家族と治療者のためのプログラムとマニュアル